ラプターズの起爆剤として活躍する渡邊雄太が日本バスケットボール界にもたらす影響

Chris O'Leary/Raptors.com

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1月31日(日本時間2月1日)にタンパで行なわれていたトロント・ラプターズ対オーランド・マジック戦の第4クォーター残り3分頃、ラプターズは今季苦手としているような状況に置かれていた。

16点差あったリードを、マジックに反撃を許し8点まで削られていた。ペイントに飛び込んだニコラ・ブーチェビッチは、リングに背を向けた状態でパスをもらい、ターンから楽に得点できる状態だった。決めれば2ポゼッションにまで迫る展開だったものの、そこに現れたのが渡邊雄太だ。

渡邊はブーチェビッチのショットを止め、ブロックしたそのボールはパスカル・シアカムの手に渡り、彼はそのまま速攻で得点。再びリードを二桁へと広げたラプターズは、その後振り返ることなく13点差の勝利を手中にした。

注意深く見ていると、渡邊はコートに立てばすぐに起爆剤としての役割を果たしているのがわかる。平均3.9得点、3.4リバウンド、0.8ブロック、12.7分出場と数字は驚くようなものではないかもしれないが、彼は徐々にラプターズのローテーションへと食い込み始めている。徹底的に守備をし、チームを助けるためならどんな状況にも身を投じることを恐れない。そのハッスルプレイのおかげで出場時間が増え始め、結果的にそれがオフェンス面での貢献にも繋がっている。

1月29日(同30日)にサクラメント・キングスに敗れた試合でシーズン最多となる24分の出場で12得点を記録すると、31日(同1日)のマジック戦での勝利では11得点、3ブロックを記録した。

ラプターズのニック・ナース・ヘッドコーチは「とても良いことに、彼は常に動き回っており、それが我々のオフェンスを助けてくれている」と勝利後に述べた。

「彼の今の役割はハードにプレイし、ミスを最小限に抑えることだ。彼はあまりミスを犯さない。それは努力の賜物以外の何物でもない。まだあまり知られていない選手なので、コーナーでフリーになることも多い。彼は良いシューティングストロークを持っている。成長していることはもちろんだが、彼は今季ずっと良いプレイをしてくれているよ」。

得点やハッスルプレイ後に毎回力強いガッツポーズを見せる渡邊は、なぜベンチからの起爆剤となる選手がファンに好かれるのかを体現している。ラプターズファンは最近になって渡邊の存在を知ったかもしれないが、ジョージ・ワシントン大学時代から母国の日本では多くのファンが彼のことを応援し続けている。

ワシントン・ウィザーズで日本語コンテンツを制作しているザック生馬氏は「日本では多くのアスリートが野球やサッカーを選びます」と語る。

「プロ選手になろうと思った時に、バスケットボールというのは第1候補にはあまりあがらないかもしれません。(海外バスケットボールは)どこか遠い存在という認識がありました。多くの選手が北米に渡りメジャーリーグでプレイすることに日本人も慣れ始めていますが、NBAは別世界でした」。

日本人ファンの中でも、八村塁の方が有名ではあるものの、渡邊はその特殊なキャリアが注目されていると生馬氏は説明した。渡邊はドラフト外の2ウェイ契約選手としてメンフィス・グリズリーズで2年間プレイ。そして今季はラプターズでトレーニングキャンプ契約からロスター入りを果たした。ラプターズの2ウェイ契約選手としてプレイする26歳の渡邊は、自身がNBAでプレイできるレベルにあることを証明しているのだ。

生馬氏は「日本の主要なメディアは、海外でプレイする日本人選手を常にチェックしていると思います」と話す。

「これまでのような『渡邊選手が今日出場し、ガベージタイムで少しプレイしました』ではなく『ローテーション入りし、20分の出場で10得点獲得しました。またも活躍、またもエナジー溢れるハッスルプレイ』といった感じになっています。出場時間を与えられたことで役割も大きくなり、報道もそれだけ大きくなっています」。

渡邊と八村はそれぞれNBAでプレイする歴代2人目と3人目の日本人選手であることから、日本で成長を続けるバスケットボール界を先導する存在となっている。

渡邊は八村の影響力について「とても日本のバスケットボール界のために重要」だと1月上旬に話している。

「僕や塁のように、多くの子供たちがいずれNBAでプレイできると良いなと思います。これはとても良いことです。僕としても、もっと結果を出さないといけない。塁はもちろん素晴らしい結果を出しています。僕ももっとできる。そうすればもっと多くの人がバスケットボールを見てくれ、バスケットボールが大きくなってくれます。だからこそ、もっと努力しなければなりません」。

アイスホッケーと野球が大人気な国で、もっとテレビで放送して欲しいと願い続けていたカナダのバスケットボールファンにとって、これは馴染み深い話かもしれない。

1991年から2010年まで、NBAドラフトで指名されたカナダ人は8選手しかいなかった。その間、カナダにとって2つの重要なことが起きている。ビンス・カーターがラプターズでプレイし(1998~2004)、スティーブ・ナッシュが2005年と2006年に2年連続MVPを獲得した。彼らの影響力は計り知れない。その後2011年から2019年までに23人ものカナダ人選手が指名されているのだ。12月に開幕した今季のNBAロスターには、17人のカナダ人選手が名を連ねている。

日本バスケットボール界が急激な成長を見せてからまだ日は浅いが、生馬氏は次世代の選手たちのポテンシャルに期待を寄せているようだ。もし今年東京でオリンピックを開催することができれば、日本人の子供たちが世界トップレベルの相手と日本が対戦するのを直に観ることが可能となる。スティーブ・ナッシュがカナダにもたらした役割を八村が担うとともに、渡邊の高いエナジー溢れるプレイも多くのファンを引き込むだろうと彼は予想している。

「これから8年後、渡邊と八村がいたおかげでより多くの日本人選手が高いレベルでプレイしている可能性もあり得ます」と生馬氏は語った。さらに、日本人の平均身長により近いポイントガードの成功などがあれば、更なる発展があるのではないかと付け加えた。

渡邊がラプターズで結果を出し続けていることで、日本のバスケットボールファンが注目するのはもはや八村のハイライトだけではなくなっている。

生馬氏は「よりディープなファンの間では、渡邊がいつ本契約を勝ち取れるのかという話で持ちきりです」と語る。

「実際にそうなった時、日本は大騒ぎになるでしょう。ずっと待ち望んでいることです。彼は本当に努力を続け、少しずつですが前に進んできました。塁のように指名され、最初から先発出場しているわけではない。雄太はとても長い道のりを歩んできているのです」。

「本当にいい人なので、みんなが必死に彼のことを応援しています。もし彼が2ウェイ契約から本契約になった時、日本は間違いなく大騒ぎになると思いますよ」。

原文:Raptors' sparkplug hopes for a basketball boom in Japan by Chris O'Leary/Raptors.com(抄訳)
翻訳:大西玲央 Twitter: @ReoOnishi


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