[杉浦大介コラム第115回]NBAオールスター2022終了…シーズン後半戦の5大注目ポイント

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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2022年のNBAオールスターが終わったNBAは、現地2月24日(日本時間25日)から後半戦に突入する。レギュラーシーズンはすでに約7割が終了しており、これからは順位争いのラストスパート、そして4月中旬にはプレイオフがスタートする。今回は、注目ポイントを5つピックアップし、今季後半戦の見どころを探っていきたい。


1. サンズは2年連続ファイナルに進めるのか? 鍵を握る2人のベテランの状態

本来であれば、オールスターブレイクまでにリーグ首位の48勝(10敗)をあげたフェニックス・サンズが今季の優勝争いの本命と目されて然るべきだった。しかし、オールスターの総括コラムで記した通り、チームリーダーのクリス・ポールが右手親指の剥離骨折で戦線離脱。6~8週間後に再検査に臨む方向で、4月16日(日本時間17日)から始まるプレイオフに間に合うかは微妙な状況となってしまった。

「ケガはいつだって苛立つものだ。僕はキャリアで4回、手を手術してきた。でも、もっと悪い事態もあり得た。僕はまだ恵まれている。今の僕らは48勝10敗だ。ありがたい。しばらく欠場するとしても、みんなが維持してくれると分かっている」。

オールスター期間中、ポールはそうやって希望に満ちた言葉を残していた。実際に5月には37歳になる大ベテランPGにとって、ここでの休養はプラスに働くかもしれないという見方もある。ただ、いつ、どのような状態で戻ってこれるかはわからない。それだけに、ウェスタン・カンファレンスの今後は不透明になったと見る方が妥当かもしれない。今季の平均アシスト部門でリーグを牽引してきたポールが不在の間、デビン・ブッカーやディアンドレ・エイトンといった若きスターたちの真価が改めて問われることにもなる。

サンズの足並みが乱れた場合、2位以下のチームにもチャンスが出てくる。特に、守備の要であるドレイモンド・グリーンが左ふくらはぎのケガからシーズン終盤までに戻ってきた場合、ステフィン・カリーやクレイ・トンプソンといったスーパースターを抱えるゴールデンステイト・ウォリアーズはやはり怖いチームになる。グリーンが離脱するその1月5日まで、ウォリアーズのチームディフェンスは1位(現在は7位)、オフェンスは9位(同17位)だったことからも、その重要度は明らかだ。

シーズン終盤、そしてプレイオフで、2人のベテランがどんなコンディションでコートに立つかに注目が集まる。

ドレイモンド・グリーン&クリス・ポール
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2. レブロン・ジェームズ&レイカーズの逆襲はあるのか?

ロサンゼルス・レイカーズはオールスター時点で27勝31敗とウェスタン・カンファレンス9位に沈んでいる。レブロン・ジェームズ、アンソニー・デイビス、ラッセル・ウェストブルックというNBA75周年記念チームにも選出された3人のスーパースターを抱えていながら、レイカーズは今季最大の期待外れチームとみなされている。6位のデンバー・ナゲッツにも6ゲーム差をつけられており、7〜10位のチームで争われるプレイイン・トーナメントに臨む可能性が高そうだ。

とはいえ、経験豊富な選手が多いレイカーズが大事な時期に危険なチームに変貌しても不思議はない。ウェストブルックはワシントン・ウィザーズでプレイした昨季も当初は苦しんだものの、徐々に適応し、昨年4月には17戦中14度もトリプルダブルを達成するなど大爆発したのは記憶に新しい。また、依然として最高級の能力を保つレブロンが率いるチームは、プレイオフにおいてどのチームにとっても怖い存在だ。

「トレード期限あたりからチームのエナジーが変わり、(オールスター前の)過去数戦のチームのプレイを気に入っている。このエナジーを保っていきたい。それはリーダーである僕から始まるんだ」。

オールスター期間中にはそう意気込んでいたレブロンが中心になったレイカーズが、プレイイン・トーナメントを突破したら戦況は俄然面白くなるだろう。プレイオフ1回戦でサンズと対戦したとして、司令塔ポールがそれまでに復帰できなかった場合には何が起こってもおかしくはない。

波乱を起こすには、右足首捻挫でまたも故障離脱したデイビスが健康な身体を取り戻し、ウェストブルックの役割も確立することが条件になる。レイカーズの逆襲はけっして容易ではないが、悩めるスター軍団を見限るにはまだ早すぎるだろう。

Lakers Big 3
(Getty Images)

3. 新生76ersの中心ジョエル・エンビードとジェームズ・ハーデンは噛み合うのか?

イースタン・カンファレンスは現時点でマイアミ・ヒート、シカゴ・ブルズ、フィラデルフィア・76ers、クリーブランド・キャバリアーズ、ミルウォーキー・バックスという上位5チームが2.5ゲーム差以内にひしめく大混戦になっている。さらに6位のボストン・セルティックスも直近の13戦中11勝と好調で、8位のブルックリン・ネッツも大トレードを完了させ、心機一転を図ったばかり。上位陣の戦力はいずれも厚く、今後も本命不在のバトルが続きそうだ。

その中でひとつ注目チームを挙げるなら、やはりトレード期限にネッツからジェームズ・ハーデンを獲得した76ersだろう。ハーデンのムラの多さと左ハムストリングのケガの状態は気になるところだが、コートに立てば勝敗を左右する実力者であることに変わりはない。また、MVP候補の最右翼に挙げられるジョエル・エンビードの現在のモチベーションの高さは、オールスターでNBA75周年記念チームの表彰セレモニーの感想を聞かれた際のこんな言葉にも表れている。

「素晴らしかった。いつか引退した時に自分もそこにいたい。引退する前のうちにかな。もちろん、そのためには勝たなければいけない。才能があればそこにいられるかもしれないけど、優勝しなければいけないんだ。だから、毎日それが僕の目標だよ」。

昨季王者のバックス、ジミー・バトラーを中心とする勝負師軍団ヒートらの強さを考慮した上でも、エンビードとハーデンが噛み合えば、76ersは一気にイーストの頂点まで駆け上がっても不思議はない。レギュラーシーズンの残りは24戦。終盤戦のうちに上位進出に必要なケミストリーを養成できるかどうか、新たな強力デュオから目が離せない。

ジェームズ・ハーデン&ジョエル・エンビード
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4. ベン・シモンズを加えたネッツの新ビッグ3は機能するのか?

イーストの注目チームをもうひとつ挙げるとすれば、それは76ersがハーデンを獲得するトレードのパートナーとなったネッツにほかならない。オールスター選出10度、得点王3度、シーズンMVPというスーパースター、ハーデンを放出したネッツは、一見すると戦力ダウンは必至と思うかもしれない。ただ、その交換要員として獲得したベン・シモンズがネッツで今後どう機能していくかも実に興味深い。

シモンズは25歳と若く、ディフェンス能力はリーグ最高級とも評されるプレイメイカーだ。守備力と身体能力の乏しさが弱点だったネッツにとって、ハーデンよりもフィットする選手という見方もある。

これまで様々なアップ&ダウンに見舞われてきたネッツは、現時点でカンファレンスの8位と、レイカーズと並ぶ今季の期待外れチームと捉えられても仕方ない成績だが、チームとしての伸びしろが残っているのもまた事実だろう。

現実的にネッツが優勝争いに参戦するための条件は3つある。まずは現在離脱中のケビン・デュラントが健康を取り戻し、今季はまだ1試合もプレイしていないシモンズが良いコンディションでチームにフィットすること。そして、ワクチン未接種問題のためニューヨーク以外の街でしかプレイしていないアービングが、ホームゲームでもプレイするようになること。

3つ目の条件をクリアできるかは読みづらいが、ニューヨーク市のワクチンに関する規制は緩和されそうな雰囲気があり、まだ希望はある(※編集部注:2021年9月より、ニューヨーク市では屋内飲食・スポーツジム・娯楽施設等への入場の際にワクチン接種証明書の提示が義務付けられている。参照)。

「新戦力が加入し、故障者も戻ってきて、優勝という目標を果たすためのパズルのピースはすでにネッツにはすべて揃っている。あとはそのピースを適切な場所にはめていくだけなのだと思う」。

オールスター期間中、ベテランシューターのパティー・ミルズが残したそんな言葉は、必ずしも単なる身びいきではないのだろう。

ベン・シモンズ(ブルックリン・ネッツ)
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5. 後半戦も注目の日本人NBA選手、八村塁と渡邊雄太の今後は?

最後にやはりNBAでプレイする2人の日本人選手たちにも触れておきたい。個人的な理由で今季開幕から2か月以上欠場したワシントン・ウィザーズの八村塁だったが、1月9日に復帰してからは力強いプレイを見せている。ここまで全試合ベンチからの出場ながら、2月に入ってからの8試合では平均10.6得点。自慢のポストプレイやミドルレンジでのゲームだけでなく、特に今季は3ポイントショットの成功率が46.2%と向上したのが大きい。

「相手にも僕のスリーをリスペクトされてきているので、その中でドライブとかがやり易くなっているんじゃないかなと思います」という八村本人の言葉通り、プレイの幅は確実に広がった印象がある。

時を同じくして、2月上旬、エースのブラッドリー・ビールが左手首舟状月状靭帯損傷の修復手術を受けて今季中の復帰が難しくなった。今後はカイル・クーズマ、新加入のクリスタプス・ポルジンギス、そして八村が中心になっていくことが予想される。現在イースト11位(27勝31敗)のウィザーズのプレイオフ進出は依然として厳しい状況にあるが、出遅れた八村としては残り24戦でその実力を改めてアピールしておきたいところだ。

八村塁(ワシントン・ウィザーズ)
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今後に向け、アピールが必要な立場なのはトロント・ラプターズに所属する渡邊雄太も同じだ。序盤戦ではチームに不可欠な存在になっていた渡邊だったが、1月4日にリーグの安全衛生プロトコル入りして以降はプレイタイムが激減している。2月は4試合の出場にとどまり、それもすべて10分以下のプレイタイムと我慢を余儀なくされている。

新型コロナウイルスの症状自体はほとんどなかったというが、好調だった時期に休養を余儀なくされたこと、その間にそれまで負傷離脱していた選手が復帰して陣容が揃ってしまったことなど、渡邊個人にとって不運な状況に見舞われた感は否めなかった。

渡邊雄太(トロント・ラプターズ)
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ただ、この厳しい状況下でも、これまで様々な逆境を跳ね除けてきた渡邊の闘志は衰えてはいない。彼はしっかりと現状を認め、同時に明るい未来を見据えている。

「今は試合に使われていないというのも納得です。コロナのせいだったりとか、誰かのせいにするつもりは一切ありません。今までやれてきた部分というのは絶対にあるんで、しっかりと準備してチャンスを待たなきゃいけないと思っています」。

ラプターズは依然として層が厚いとはいえないチームだけに、渡邊に出場機会が巡ってくる時期は必ず訪れるはずだ。チームは依然として好調で、次のチャンスをつかめば渡邊にも自身初のプレイオフ出場の可能性が膨らんでくる。そんな渡邊とラプターズの動向も、今季後半戦の楽しみのひとつだ。

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。