[宮地陽子コラム第95回]渡邊雄太と吉本泰輔ーーNBAサマーリーグで実現した“日本人対決”

宮地陽子 Yoko Miyaji

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7月9日、NBAサマーリーグのブルックリン・ネッツ対ミネソタ・ティンバーウルブズの試合で、日本人対決が実現した。といっても、1人はコート上、1人はベンチからの戦いで、直接マッチアップしたわけではなかったが──。

コートに立っていた1人は、ネッツのサマーリーグチーム選手として試合に出ていた渡邊雄太。ベンチにいた1人は、ティンバーウルブズのコーチ陣の1人としてサマーリーグではベンチ入りしている吉本泰輔(※)。これまで、何度か道がすれ違い、時に交わってきた2人が、ついに同じ試合で対戦することになったのだ。

※現在の肩書はバスケットボール運営部門責任者(トム・シボドー)付特別アシスタント。コーチ業務、フロント業務などすべての面でシボドーのサポートを務めている。

以前から親交のあった渡邊雄太と吉本泰輔


最初に縁があったのは、渡邊がコネチカット州のプレップスクール、セント・トーマスモアにいたときのこと。進学先の最終候補をジョージ・ワシントン大とフォーダム大の2校に絞って迷っていたときだった。

実は吉本は、フォーダムの大学院出身で、在学当時はフォーダム大のバスケットボール部でマネージャーも務めていた。その縁で、フォーダムのコーチ陣(当時)から吉本に連絡があり、渡邊をフォーダムに誘ってほしいと頼まれたのだ。結局、渡邊はジョージ・ワシントンを選び、このときは2人の道はかすっただけで終わった。

それ以降、吉本はジョージ・ワシントン大での渡邊のプレイを気にかけていた。年に1度の遠征でワシントンDCを訪れたときにジョージ・ワシントン大のホームゲームを見に行ったこともあった。

2人の道が本格的に交わったのは今年3月。渡邊がA10トーナメントでNCAA選手として最後の試合に敗れ、気持ちをNBA挑戦に向けて切り替え始めた頃だった。遠征でDCを訪れていた吉本は、渡邊に連絡を取り、2人はこのとき初めて食事を共にした。吉本は、これからNBAに挑もうとする若者のことを知りたいと思い、渡邊は、自分が目指している舞台を知っている吉本に話を聞き、アドバイスをもらいたいと思ったのだ。実際、現場でコーチ・スタッフの一員として働いてきた吉本は、これまでに多くのドラフト前ワークアウトを見てきていて、渡邊にとっては参考になる話ばかりだったという。

吉本が渡邊に送ったアドバイス


渡邊がこのとき、何よりも気になっていたのは、足の故障が治った後に待っているNBAチームでのドラフト前ワークアウトのことだった。大学最終戦で足首を捻挫した渡邊は、そのために4月に行なわれたドラフト候補選手のための合同スクリメージ、ポーツマス・インビテーショナルに参加できなかった。NBAのGMやスカウトに見てもらえるチャンスは限られたワークアウトだけ。そこで何とかアピールする必要があった。

いったいNBAチーム側は、ワークアウトで選手のどんな部分に注目しているのだろうか。そう尋ねた渡邊に、吉本は「どんなスキルを持っているかということ以前に、一番注目しているのは練習の姿勢だ」と伝えた。

練習に対する姿勢は、渡邊自身が常日頃から心がけていることだ。大学にいるときも、どれだけ勉強が忙しい日でも、日本から家族や友人が来ているときでも、毎日、夜に一人でシューティングをしないと落ち着かないぐらいだった。

「僕自身、練習態度の部分では一番でなくてはいけないと思ってはいたんですけれど、中にいる人に改めてそう言われて、より気を引き締めることができました」と、渡邊は吉本からのアドバイスを思い出す。

5月末から6月中旬まで、8チームのワークアウトを受け、またイタリアで行なわれたNBAグローバルキャンプやエージェントのプロデーでもNBAへのアピールをした渡邊は、サマーリーグに招待された複数のチームの中からネッツを選択。そして、この7月9日にラスベガスのコックス・パビリオンのコート上で吉本のチームと対戦したのだった。

吉本はサマーリーグの期間中、対戦相手のスカウティングを担当しており、他の選手と同じように渡邊のプレイ傾向や長所、短所などのリポートを作成したという。

試合前、渡邊を見かけた吉本は、英語で『きょうはお前の日じゃないぞ(好きにやらせないぞ)』と声をかけた。

「そう言われて、きょうはシュート決めてやろうと思って、少し気合入っていました」と渡邊は笑う。

やる気を刺激されたのがよかったのか、渡邊はこの試合で6本中4本の3ポイントシュートを沈め、14得点をあげた。

試合後、吉本はコート上で渡邊を追いかけて声をかけた。

"Welcome to NBA."

渡邊にとって、サマーリーグはまだNBAの入口にすぎないが、それでも、近い将来、本当のNBAコートで吉本のチームと対戦するときの予行演習には十分な経験だった。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji
写真: Benjamin Hager Twitter: @BenjaminHphoto

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東京都出身。ロサンゼルスを拠点とするスポーツライター。バスケットボールを専門とし、NBAやアメリカで活動する日本人選手、国際大会等を取材し、複数の媒体に寄稿。著書に「The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編」(日本文化出版)、「スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ」(集英社)、編書に田臥勇太著「Never Too Late 今からでも遅くない」(日本文化出版)