毎年プロ野球のオフシーズンになると「ポスティングシステム」による有力選手のメジャーリーグ(MLB)移籍が話題となる。ここではポスティングシステムの制度について解説する。
ポスティングシステムとは?
ポスティングシステムとは、海外フリーエージェント(海外FA権)を持たない日本のプロ野球選手が、所属球団の承認を得た上でMLBへ移籍する際に適用される制度。入札制度とも呼ばれる。
MLB移籍を希望する選手が所属球団と交渉し、承認を得られた場合、球団が「日米間選手契約に関する協定」に則り申請の手続きを行う。
MLBのコミッショナーから選手が公示されたのち、獲得を希望するMLB球団が選手と交渉できる。交渉期間は45日間で、期間内に契約が合意に達したら、契約金・年俸総額に応じた譲渡金が、MLB球団から所属球団へ支払われる。
プロ野球からメジャーリーグへ移籍する方法
プロ野球(NPB)からメジャーリーグベースボール(MLB)へ移籍するには、大きく分けて2つの方法がある。1つ目は海外フリーエージェント権(海外FA権)を行使する方法、2つ目がポスティングシステムを使う方法だ。
海外FA権は、入団からの一軍登録日数が通算で9年に到達すると得られ、行使を宣言することで海外球団を含めた全球団との交渉が可能になるというもの。
ポスティングシステムと海外FAの違い
ポスティングシステムと海外FAの主な違いは、プロ入りから移籍可能になるまでの期間、交渉期間、譲渡金が発生することが挙げられる。
1.移籍可能になるまでの期間
海外FA権を行使するには、上記したように一軍登録日数が9年に到達する必要がある。高卒の選手が最短で取得した場合でも27歳、大卒なら31歳となり、好条件での契約を獲得する上で不利になる。一方、ポスティングシステムを使用して若い年齢で移籍が実現すれば、より好条件での契約が得られる可能性が高まる。
2.交渉期間
海外FA権を行使して移籍する場合、交渉期間に制限はない。納得がいくまで交渉することができるが、FA市場の停滞などで契約がまとまりにくいケースもある。ポスティングシステムの場合、45日間の制限がある。
3.譲渡金
譲渡金とは、ポスティングシステムを使用した際にMLB球団からNPBの所属球団へと支払われるお金のこと。かつて入札制だったときには松坂大輔が移籍した際に5,111万1,111ドル11セント(当時のレートで約60億1000万円)もの譲渡金が発生した。現在は選手との契約総額に応じた金額が支払われる。
ポスティングシステムでメジャーに移籍した選手一覧
日付 | 選手 | 所属球団 | 移籍球団 |
1999年3月5日 | アレハンドロ・ケサダ | 広島東洋カープ | シンシナティ・レッズ |
2000年12月20日 | イチロー | オリックス・ブルーウェーブ | シアトル・マリナーズ |
2002年2月14日 | 石井一久 | ヤクルトスワローズ | ロサンゼルス・ドジャース |
2003年3月12日 | ラモン・ラミーレス | 広島東洋カープ | ニューヨーク・ヤンキース |
2003年12月17日 | 大塚晶則 | 中日ドラゴンズ | サンディエゴ・パドレス |
2005年2月24日 | 中村紀洋 | オリックス・バファローズ | ロサンゼルス・ドジャース |
2006年1月20日 | 森慎二 | 西武ライオンズ | タンパベイ・デビルレイズ |
2006年12月20日 | 松坂大輔 | 西武ライオンズ | ボストン・レッドソックス |
2006年12月22日 | 岩村明憲 | 東京ヤクルトスワローズ | タンパベイ・デビルレイズ |
2007年1月9日 | 井川慶 | 阪神タイガース | ニューヨーク・ヤンキース |
2010年12月24日 | 西岡剛 | 千葉ロッテマリーンズ | ミネソタ・ツインズ |
2012年1月19日 | ダルビッシュ有 | 北海道日本ハムファイターズ | テキサス・レンジャーズ |
2012年1月23日 | 青木宣親 | 東京ヤクルトスワローズ | ミルウォーキー・ブルワーズ |
2014年2月5日 | 田中将大 | 東北楽天ゴールデンイーグルス | ニューヨーク・ヤンキース |
2016年1月22日 | 前田健太 | 広島東洋カープ | ロサンゼルス・ドジャース |
2017年12月26日 | 大谷翔平 | 北海道日本ハムファイターズ | ロサンゼルス・エンゼルス |
2018年1月22日 | 牧田和久 | 埼玉西武ライオンズ | サンディエゴ・パドレス |
2019年1月8日 | 菊池雄星 | 埼玉西武ライオンズ | シアトル・マリナーズ |
2020年1月6日 | 山口俊 | 読売ジャイアンツ | トロント・ブルージェイズ |
2020年1月21日 | 筒香嘉智 | 横浜DeNAベイスターズ | タンパベイ・レイズ |
2021年1月12日 | 有原航平 | 北海道日本ハムファイターズ | テキサス・レンジャーズ |
2022年3月30日 | 鈴木誠也 | 広島東洋カープ | シカゴ・カブス |
2022年12月26日 | 吉田正尚 | オリックス・バファローズ | ボストン・レッドソックス |
2023年1月27日 | 藤浪晋太郎 | 阪神タイガース | オークランド・アスレチックス |
※2023年10月末時点
ポスティングシステムを利用するも契約に至らなかった主な選手
岩隈久志(東北楽天ゴールデンイーグルス)
2010年オフにポスティングシステムでメジャー移籍を目指すも、落札したオークランド・アスレチックスとの契約がまとまらず、楽天に残留。翌年オフに海外FA権を行使してシアトル・マリナーズと契約した。
菊池涼介(広島東洋カープ)
2019年オフにメジャー移籍を目指しポスティングシステムを申請。複数球団と交渉したが、メジャーリーグのFA市場の動きが遅かったことなどから契約がまとまらず、広島に残留した。
菅野智之(読売ジャイアンツ)
2020年オフにポスティングシステムを申請。複数球団と交渉したが、新型コロナウイルスの影響などでMLBのFA市場が停滞し、契約に至らず。巨人に残留した。
2023年オフにポスティングシステムを申請した選手
1月19日:日本ハム・上沢直之がレイズと契約
日本ハムが上沢直之とタンパベイ・レイズが契約したことを発表した。マイナー契約で、招待選手としてメジャーの春季キャンプに参加する。上沢は「ホッとした気持ち。でも向こうに行ってからは、キャンプ初日から勝負していく立場で気は張っている」と意気込みを語った。
1月11日:DeNA・今永昇太がカブスと契約
今永昇太がシカゴ・カブスと4年契約で合意した。契約は4年5300万ドル(約76億8500万円/1ドル145円換算)で、球団と選手の双方にオプションが付いており、最大で5年8000万ドル(約116億円)まで増額する可能性がある。
12月20日:オリックス・山本由伸がドジャースと契約
山本由伸がロサンゼルス・ドジャースと12年3億2500万ドル(約461億5000万円/1ドル142円換算)で合意した。
11月28日:日本ハム・上沢直之の申請が完了。
北海道日本ハムファイターズが上沢直之のポスティングシステムの申請を行ったことを発表した。上沢とMLB球団との契約交渉期限はアメリカ合衆国東部時間11月28日午前8時(日本時間11月28日午後10時)から2024年1月11日午後5時(同2024年1月12日午前7時)まで。
11月27日:DeNA・今永昇太の申請が完了
横浜DeNAベイスターズが今永昇太のポスティングシステムの申請を行ったことを発表した。
11月21日:オリックス・山本由伸の申請が完了
オリックス・バファローズが、山本由伸投手のポスティングシステムの申請が完了し受理されたことを発表した。
山本とMLB球団の契約交渉期限はアメリカ合衆国東海岸時間11月21日午前8時(日本時間11月21日午後10時)から2024年1月4日午後5時(同1月5日午前7時)までとなった。
11月11日:DeNA・今永昇太投手がポスティング申請
横浜DeNAベイスターズが今永昇太投手のポスティングを承認したことを発表した。
10月末時点の申請選手
10月28日に北海道日本ハムファイターズの上沢直之投手が、11月7日にはオリックス・バファローズの山本由伸投手が、球団を通じてポスティングシステムを利用してのメジャーリーグ移籍を目指すことを表明している。