オールスターに75周年記念チーム…NBA公式投票企画に参加した日本メディアの歴史

及川卓磨 Takuma Oikawa

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世界中から集まった報道陣が選手を取り囲む(2020年2月のNBAオールスター)

NBAは、オールスターゲームの先発選手やシーズン終了後のアウォード受賞者を選ぶ際にメディア投票を行なっている。とはいえ、北米を拠点とするメディア以外に開かれる門戸は決して広くはない。そんななか、今季開幕時(2021年10月)に発表されたNBA創設75周年記念チームを選出する投票の投票者に、日本のメディアから唯一、宮地陽子氏(スポーツグラフィックナンバー)が選ばれた。また、2022年のNBAオールスター投票には、その宮地氏に加えて、杉浦大介氏(日本経済新聞)も投票者として参加している。

NBA公式投票企画に関する日本メディアの歴史を振り返りながら、それがいかに特別なことなのか考察する。


オールスターのメディア投票に日本のメディアも参加

1月28日(現地27日)に発表されたNBAオールスター2022の投票結果を見て、気が付いた日本のNBAファンもいるかもしれない。通算71回目を数える今年のNBAオールスターゲーム(日本時間2月21日開催)で先発を務める東西カンファレンスの10選手が発表されたそのリストの一番下に、日本人の名前があったことを――。

渡邊雄太(トロント・ラプターズ)と八村塁(ワシントン・ウィザーズ)のことではない。もちろん、彼らの名前はNBA選手として得票者のリストには入っていた。だが、ここで言っているのはそのさらに下方、投票に参加したメディアメンバーのリストのことだ。

そこには、NBAのお膝元である米国とカナダの著名な記者たちの名前とともに、Yoko MiyajiとDaisuke Sugiuraの名前があった。そう、NBA日本公式サイトにも長年寄稿していただいている宮地陽子氏(スポーツグラフィックナンバー)と杉浦大介氏(日本経済新聞)の2人が、今年もオールスター投票に参加したのだ。

2022年のNBAオールスター投票に日本のメディアも2名が参加した
NBA Entertainment

NBAのオールスター投票は、ファン投票のほかにメディア投票と選手投票の3つが実施され、それぞれ50%、25%、25%の比重でスコア化される。そして、東西地区別に得票スコアの高い選手から順番に、その年のオールスターゲームの先発メンバーに選出される(※東西各地区のファン投票最多得票選手はそれぞれキャプテンとして先発に選出)。

リーグ公式の投票企画にメディアメンバーとして選ばれることは、記者にとっては大きな名誉だ。定期的にNBAを取材して報道実績をあげていることはもちろん、信頼できるメディアとしてその実力や功績をリーグに認められた証だからだ。

約100名の狭き門に食い込む日本メディア

あえて比較してみよう。NBAでプレイする選手はリーグ全体で年間500名前後いる(そのうち日本人NBA選手は渡邊と八村の2名)。それに対し、オールスター投票でメディアとして投票権を持っているのは、例年リーグ全体でわずか100名前後にすぎない。その100名のうちの2名が日本のメディアなのだ。宮地氏と杉浦氏の2人がいかに狭き門をくぐり抜けて、その権利を得ているかがわかるだろう。

オールスター投票に参加した日本メディアの歴史を紐解いてみると、宮地氏は今回で3年連続5回目(2017~2018、2020~2022年)、杉浦氏は2年連続2回目(2021~2022年)の投票参加となる。過去には宮地氏と杉浦氏のほかに、山脇明子氏(共同通信/2019年)と佐々木クリス氏(NBA Rakuten/2020年)が1回ずつ、NBAオールスター投票に参加した経験がある。

また、シーズン終了後に実施されるアウォード投票には、宮地氏が4回(2017~2018、2020~2021年)、佐々木氏が1回(2020年)、杉浦氏が1回(2021年)参加している。

公式記録が残っている2015年以降のデータを調べたところ、オールスターもしくはシーズンアウォードのメディア投票に参加した日本メディアは上記の通り合計で4名しかいない。歴代日本人NBA選手の人数(田臥勇太、渡邊、八村の合計3名)とほとんど変わらない人数しか、この栄誉に浴していないのだ。

『月刊バスケットボール』の元編集長でNBA解説者としても長年活躍してきた島本和彦氏によれば、氏がNBA取材に深く関わっていた頃(1980~2000年代)には、日本のメディアがこうしたNBAの投票企画に参加したことはなかったという。

実際、NBA創設50周年を記念して1996年に発表された『偉大なる50選手』の投票では、日本メディアが投票に参加したという記録はない。その他の投票についても、公式記録が残されていないため断言はできないものの、2017年に宮地氏がオールスター投票に参加するまで、日本メディアの参加はなかったと考えるのが妥当だろう。

これらを踏まえると、宮地氏、杉浦氏、山脇氏、佐々木氏の4名は、NBA史に大きな足跡を残す日本メディア界のオールスターメンバーと言えよう。

NBA創設75周年記念チームの投票者に選ばれた宮地陽子氏

なかでも、宮地氏はオールスター投票に通算5回、シーズンアウォード投票に通算4回参加という群を抜く実績を持つ“生ける伝説”というべき存在だ。本人によれば、2001年のオールスターで開催されたルーキーチャレンジ(現ライジングスターズ)のMVP投票にも参加したことがあるという。

そんなレジェンドにとってもひときわ大きな栄誉となったのが、今季開幕週に発表された『NBA75周年記念チーム』の投票に参加したことだ。

リーグ創設75周年を記念して、その歴史に名を刻んできた最も偉大な75選手を選出する(※実際には同点の選手がいたため76選手が選出された)という特大企画の投票メンバーのひとりに、宮地氏は日本のメディアとして唯一選ばれた。

リーグ史に残るこの投票に選ばれたのは、北米を拠点とする有力メディアのメンバー、現役NBA&WNBA選手、元NBA&WNBA選手、リーグ幹部など合計でわずか88名のみ。オールスターやアウォード投票に参加する約100名よりもさらに人数が絞られているそのなかに、外国メディアである宮地氏が入ったことは偉業というほかない。

NBA創設75周年記念チームの投票メンバーに名を連ねる宮地陽子氏
NBA Entertainment

宮地氏は、75周年記念チームの投票者に選ばれたことに関するNBA Japanからの質問に対し、「投票してほしいと連絡がきたときも大きな責任を感じましたが、発表になったあとに投票者の人数や顔ぶれを見て、驚くやら、恐縮するやらです」と回答している。

また、日本のメディアとして唯一選ばれたことについては「日本人だからどうということはあまり意識はしていない」としつつも、「記事を英語でない言語で書いているメディアに対しても、取材してきた経歴を評価してくれて投票者に選んでくれたことには心から感謝しています」と語っている。

1980年代後半にNBAの取材を始めた宮地氏は、それから30年以上にわたって現場に足を運び続け、雑誌やウェブメディアへの寄稿、テレビ・ラジオ出演、ソーシャルメディアへの投稿などを通じて、生のNBA情報を日本に伝えてきた。彼女の発信に触れてNBAへの興味を深めた日本のファンは何十万人といるだろうし、リーグにもたらした影響や功績も計り知れないものがあるはずだ。

宮地氏が75周年記念チームの投票メンバーに選ばれたことは、日本人がNBA選手になるのと同じくらい、あるいはそれ以上の偉業と言えるかもしれない。少なくとも私は、この20年ほどNBAを見続けてきたメディアのはしくれとしてそう感じているし、それくらい誇らしいことだと思っている。


NBA公式投票企画への日本メディアの参加実績

  • 2015年オールスター:なし
  • 2015年アウォード:なし
  • 2016年オールスター:なし
  • 2016年アウォード:なし
  • 2017年オールスター:宮地陽子(ナンバー)
  • 2017年アウォード:宮地陽子(ナンバー)
  • 2018年オールスター:宮地陽子(ナンバー)
  • 2018年アウォード:宮地陽子(ナンバー)
  • 2019年オールスター:山脇明子(共同通信)
  • 2019年アウォード:なし
  • 2020年オールスター:宮地陽子(ナンバー)、佐々木クリス(NBA Rakuten)
  • 2020年アウォード:宮地陽子(ナンバー)、佐々木クリス(NBA Rakuten)
  • 2020年シーディングゲームアウォード:なし
  • 2021年オールスター:宮地陽子(ナンバー)、杉浦大介(日本経済新聞)
  • 2021年アウォード:宮地陽子(ナンバー)、杉浦大介(日本経済新聞)
  • 2022年オールスター:宮地陽子(ナンバー)、杉浦大介(日本経済新聞)

※公式データが残っている2015年以降のみ(著者調べ)。敬称略。

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及川卓磨 Takuma Oikawa

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スポーティングニュース日本版編集長。千葉県生まれ、茨城県育ち。2000年日本大学卒。大学在学時を含めて丸14年間バスケットボール専門誌の編集者として企画立案・取材・執筆・編集・誌面制作・マルチメディア運営等に携わる。2013年秋にNBA日本公式ウェブサイト『NBA Japan』編集長就任。サイトやNBA日本公式ソーシャルメディアの新規開設に携わると同時にメディア運営を主導。2022年4月より現職。主な競技経験はバスケットボール、野球、サッカー。