【独占インタビュー】アントニオ・ラング「機会を与えてくれた日本に恩返しをしたいんだ」(西尾瑞穂)

Mizuho Nishio

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NBAがオフシーズンになる夏になると毎年必ず来日して、日本各地でバスケットボール・クリニックを開催しているアントニオ・ラング(クリーブランド・キャバリアーズのアシスタントコーチ)が今年も日本にやってきた。

ラングは、マイク・シャシェフスキー・ヘッドコーチ(以下"コーチK")の下、NCAA(全米大学体育協会)の名門デューク大学で全米2連覇を達成し、1994年のNBAドラフト全体29位でフェニックス・サンズに入団。その後、クリーブランド・キャバリアーズなど数チームでプレイしたのち、2001年から日本の三菱電機でプレイした。現役引退後の2007年から三菱電機のアシスタントコーチに就任し、2010年には同チームのヘッドコーチを務めた。

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2014年からは、同じくコーチK率いるデューク大出身のクイン・スナイダーがユタ・ジャズのヘッドコーチに就任したことをきっかけに、ジャズのアシスタントコーチに抜擢され、2019-20シーズンからはキャバリアーズでアシスタントコーチを務めることが決まっている。

来日2日目の8月1日、Bリーグのアースフレンズ東京Zで特別指導を行なったラングに、今でも大切にしている日本との繋がりや、新たなチームで迎えるNBA、そしてNBAで活躍する日本人選手について話を聞いた。

 

東頭が私に日本語を学ぶことの重要性を教えてくれた

――あなたは、三菱電機時代から付き合いのあるアースフレンズ東京Zの東頭俊典ヘッドコーチと『Crossing The Border』という取り組みを立ち上げ、毎年来日して日本の選手やコーチを指導しています。NBAのアシスタントコーチになった今でも日本との関わりを続けていることは、あなたにとってどのような意味を持っているのでしょうか?

アントニオ・ラング(以下AL): 三菱電機の選手として来日したとき、東頭が私に日本語を学ぶことの重要性を教えてくれたんだ。そして、彼は私に日本語を教えてくれた。それから13年間、私は選手とコーチとして日本のバスケットボールに関わってきた。その機会を与えてくれた日本に、私は恩返しをしたいんだ。

――ジャズとキャバリアーズのチーム哲学に違いはありますか?

AL: 興味深いことに、良いヘッドコーチというのは似たようなアイデアと哲学を持っているんだ。クイン(スナイダーHC)と私が就任する前のシーズン、ジャズのディフェンスはリーグ29位だった。だから、我々はまず、ディフェンシブなチームを作ることを目標に掲げた。そこから、チームのディフェンスは年々改善し、ルディ・ゴベアが成長したこともあって、ジャズはリーグ随一のディフェンシブチームになった。

クインはオフェンシブ・マスターマインド(オフェンス戦術を考案する達人)だし、(ドノバン・ミッチェルをはじめとする)良い選手も続々とチームに加わったのももちろんだが、ジャズが強くなったのはなんと言ってもディフェンスのおかげだ。

今のキャバリアーズは当時のジャズと同じ状況だ。昨季のキャバリアーズのディフェンスはリーグ30位で、NBA史上でも最低の内容だった。そこで、チームはジョン・ビーラインを新ヘッドコーチに迎え、JB・ビッカースタッフらアシスタントコーチ陣も刷新した。我々は、まずディフェンスの改善に着手するし、コーチ・ビーラインもオフェンシブ・マスターマインドだ。だから、当時のジャズと今のキャバリアーズは似通っているんだ。

また、この2チームはオーナーやゼネラルマネージャーといったマネジメントの部分でも似通っている。どちらの球団のフロント・オフィスも最上級だ。時間はかかるかもしれないけれど、キャバリアーズも今のジャズのような強豪チームになることを願っているよ。

 

きっと誰もが、コーチ・ビーラインが特別であることにすぐに気付くはずだ

――ビーラインHCの印象は?

AL: まず第一に、彼は非常に素晴らしい指導者だ。ミシガン大学のヘッドコーチとして優秀な選手を多数NBAに送り込んできたことからも、それは明らかだ。そして、彼は素晴らしい人物だ。彼は私が今まで会った中で最も謙虚な人物で、敬けんなクリスチャンで、家族思いなんだ。クインもそうだったけれど、彼と毎日会って、彼の行動を見ているだけでも学ぶことがたくさんあるよ。きっと誰もが、コーチ・ビーラインが特別であることにすぐに気付くはずだ。だから、私は彼がNBAでも成功すると感じているんだ。

――キャバリアーズの来シーズンのキープレイヤーは誰ですか?

AL: キーになる選手はたくさんいるよ。ケビン・ラブは外のシュートがあるから、彼がいることでフロアを広く使えるはずだ。コーチ・ビーラインのオフェンスではパスができるビッグマンがポイントになるので、健康な状態を維持できればラブは今まで以上に輝くはずだ。

もちろんコリン・セクストンにも大きな期待がかかっているし、トリスタン・トンプソンの存在も重要だ。ルーキーのダリアス・ガーランドやケビン・ポーターJr.も良いボール・プレイヤーだ。来シーズンはチームのシステムがガラリと変わるので、それぞれの選手がチームメイトのプレイを理解する必要が出てくる。そういった意味でも、積極的にボールを回して、スペースを利用し、フリーのチームメイトを見つけるコーチ・ビーラインのシステムがうってつけだと私は思っている。

今のキャバリアーズには若い選手が多いので、まずは彼らがどれだけプレイできるか見極めないといけない。セクストンとダリアスの2ガード・システムは機能すると思うし、ケビン(ポーターJr.)にも期待している。我々のシステムなら、きっと選手たち全員が上手く噛み合うはずだ。

 

八村塁はきっとパスカル・シアカム(ラプターズ)のような選手になれるはずだ

――来シーズンのNBAは、どのチームが台頭するでしょうか?

AL: ユタは凄く良くなると思うよ。彼らは何人かの良い選手を放出したけれど、オーナーのゲイル・ミラーは彼ら全員に丁寧な手紙を送ったんだ。それはとても素晴らしいことだよ。とにかく、ユタはきっと強くなるはずだ。

ロサンゼルス・レイカーズも強くなるだろう。世界でトップクラスの2人(レブロン・ジェームズとアンソニー・デイビス)が揃ったんだからね。彼らがどんなチームを作るのか楽しみだよ。

そのほかにもヒューストン・ロケッツやデンバー・ナゲッツも良いと思うし、ポートランド・トレイルブレイザーズやロサンゼルス・クリッパーズも忘れてはいけない。ウェスタン・カンファレンスは多くのチームにチャンスがあると考えて良いだろう。

イースタン・カンファレンスはミルウォーキー・バックスが来ると思う。彼らはタフだからね。まだ何とも言えないところだけれど、トロント・ラプターズとフィラデルフィア・76ersがバックスの後に続くだろう。ただ、ラプターズはエースのカワイ・レナードを失ったし、76ersも複数のキープレイヤーが去ったのでしばらくは手探り状態になるはずだ。そういった状況を踏まえると、やはりミルウォーキーが東のベストチームだと言えるだろう。

ウェストのほうは良いチームが多すぎてどうなるか予想がつかないね。だからこそ、ジャズにとって大きなチャンスが到来したと、私は考えているんだ。

――NBA1年目を迎える八村塁に期待することは?

AL: 試合に出場している間は、とにかく自分らしくプレイしてもらいたいね。彼は良いボール・プレイヤーだからね。彼はアスレティックで長さもあるし、ミッドレンジから得点もできる。彼にはこのまま努力を重ねて成長していってもらいたい。オフェンスでもディフェンスでもね。

このまま順調にいけば、彼はきっとパスカル・シアカム(ラプターズ)のような選手になれるはずだ。ストレッチ4(外角シュートを得意とするパワーフォワード)としてインサイドでもアウトサイドでもプレイできて、ドリブルで味方のショットをクリエイトし、運動能力を生かして攻守に活躍する選手にね。

なにより、私は塁と渡邊雄太の存在によって日本のバスケットボールが盛り上がっていることが凄く嬉しいんだ。彼らは向上心と競争心に溢れているし練習熱心だから、きっとNBAでも活躍できるはずだ。

――最後に日本のファンに向けて“日本語で”メッセージをお願いします。

AL: 日本の皆さん、ぜひNBAのバスケットボールを見て、応援してください。八村塁と渡邊雄太は良い選手になると思うので、絶対に応援してください。私は日本でたくさんの素晴らしい経験をしました。その恩返しのためにも、私は今後も毎年日本に来て選手たちを指導したいと思っています。来シーズンはクリーブランド・キャバリアーズとユタ・ジャズを応援してください(笑)。よろしくお願いします。


Mizuho Nishio