マーロン・タパレスはどうすれば井上尚弥を倒せるか|12.26 スーパーバンタム級4団体統一戦

Tom Gray

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

石山修二 Shuji Ishiyama

マーロン・タパレスはどうすれば井上尚弥を倒せるか|12.26 スーパーバンタム級4団体統一戦 image

これまで十分な実績を挙げているにもかかわらず、WBAスーパー/IBF世界スーパーバンタム級王者マーロン・タパレスは、対抗王者である井上尚弥との4団体統一戦(12月26日、有明アリーナ)で圧倒的な不利を予想されている。

ここでは、ボクシングメディアのオーソリティのひとりで本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが、その理由と番狂わせの可能性を分析する。

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The Ring誌元編集人もお手上げ? タパレスに勝ち筋はあるのか

「いきなりで恐縮だが、私はマーロン・タパレス井上尚弥を倒すには、何人か助っ人でも連れてこない限り難しいと考えている」

名門『The Ring』誌の元編集人(現在もレーティングパネリストなどで同誌に関与)として長く業界に携わり、アジアボクシングシーンにも精通する本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイは、東京・有明アリーナで行われるスーパーバンタム級4団体統一戦についてこう語る。

勿論、そんな身も蓋もない話で終わるワケにはいかない。では、この一戦でタパレスはどうすれば勝利を収められるのか。井上をプロデビュー以来追い続けるMr.グレイが、その見地を踏まえて、タパレスが『ザ・モンスター』を打ち破る可能性を分析した。

なお、このタイトルマッチならびにアンダーカードは、日本ではNTTドコモの動画配信プラットフォーム『Lemino』(レミノ)で独占無料生配信される。

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分析する程に可能性が狭まるタパレスの勝機

タパレス(37勝3敗、19KO)はWBA/IBF世界スーパーバンタム級王者だ。このフィリピン人サウスポーは、2016年から2017年にかけて短期間だがWBO世界バンタム級王者でもあった。その実績に疑問をさし挟む余地はない。ムロジョン・アフマダリエフ戦、勅使河原弘晶戦、プンルアン・ソー・シンユー戦での素晴らしい戦いで見せたように、積極的で勇猛勇敢、パワフルなファイターだ。

唯一の問題は、今回の対戦相手が『ザ・モンスター』だということだ。

WBC/WBO世界スーパーバンタム級王者の井上(25勝0敗、22KO)は、現時点で世界最高峰のPFPファイターであることは間違いなく、すでに4階級制覇を成し遂げている。スピードに加え、爆発的なパンチ力、優れたテクニックを持っており、今の彼が敗れる姿を想像するのは難しい。

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では、タパレスはどうすればいいのか?

まず、これまで見せてきたアグレッシブなスタイルを捨てることが必要だ。タパレスが攻め込めば、それだけ井上にカウンターのチャンスを与えることになるからだ(井上は、相手のパンチを引き付け、寸前でかわして反撃する「プルカウンター」で多くの敵を篭絡してきた)。

とはいえ、バランスも大事だ。タパレスの実力を軽視するわけではないが、あっという間に倒されてしまう可能性もある(2019年の岩佐亮佑戦で1回TKO負けを喫している)。タパレスにとっては、チャンスをうかがいながら、一発一発のパンチを正確に決めていくことが何より重要だ。ダメージを与えるに充分なパンチ力は持っている。あとは我慢強く戦うことができるかが鍵となる。

もう一つ、タパレスがアドバンテージを得るために、サウスポーのスタンスで臨むことを勧めたい。通常、オーソドックス(右打ち)ボクサーはサウスポーと対峙することを歓迎しないものだ。なぜなら、すべての攻撃が逆サイドから繰り出されてくるし、多くの場合、そもそもサウスポーに対してディフェンスを組み立てていないからだ。

ただ、タパレスはサウスポーではあるが、スクエア(相手に対して身体を正面気味に開くスタンス)に構える選手なので、せっかくのアドバンテージを活かし切れていない。加えて(本末転倒ではあるが)井上はこれまでの3人のサウスポーと対戦し、すべての相手を葬り去っているのでどこまでのアドバンテージになるかは不明だ(オマール・ナルバエス/2回KO、ファン・カルロス・パヤノ/1回KO、マイケル・ダスマリナス/3回KO)。

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残された勝ち筋はただひとつ?

タパレスにとってベストな戦い方は、状況に応じたな変化を見せることだ。以前『The Ring』誌(リングマガジン)の取材で、井上と初めて戦う前のノニト・ドネアにインタビューしたことがある。そこで彼が語っていたのが、試合状況に適応することの重要性だった。

その試合(2019年11月)、ドネアは井上にダメージを与える場面をいくつも作り出し、左フックで井上の眼窩底を骨折させている。『フィリピンの閃光』の異名をとるドネアが前に出たり、後ろに下がったり、パンチのスピードとパワーと巧みに変化させ、いろいろな形を見せたことで、井上は終始その対応を余儀なくさせられた。

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あの日、埼玉でドネアが見せたような戦い方をタパレスが真似ることはできるだろうか? 実際のところ、そのハードルは高い。多くの場合、井上がそれを許さないからだ(2022年のドネアとの第2戦では、井上は圧倒的な攻勢で封殺し、2回TKOに沈めた)。

まずひとつ、タパレスが絶対に避けなくてはいけないのは、パニックに陥いることだ。井上戦ではこれまでの試合以上に打ち込まれることが想定される。まずはその覚悟を決めておくことだ(昨年12月、ポール・バトラーが徹底した消極戦法の奇策に打って出たが、11回でトドメを刺された)。また、タパレスはボディワークがうまい選手なので、それを活かす手もある。これまで井上を相手にボディワークを活用できた選手はいなかった。とは言え、これも頭を相手に晒してしまうという意味では、リスクを孕んだ戦い方ではある。

色々と書いてきたが、結局のところ、タパレスにできることはただひとつ、自分の持っている武器(当て勘、サウスポー、ボディワーク)を磨き上げ、貫くだけだ。あとは幸運を祈ろう。ボクシングは予期せぬことが起きるもの。12月26日、何が起こるかは誰にもわからない。

なお、タパレスは来日後の公開練習でほとんど本意気のパンチを見せず、メディアと井上陣営を煙に巻いた。その模様はTOP RANK社公開の動画で垣間見える。

※本記事は国際版記事(著者: Tom Gary)を翻訳し、日本向け情報を追記・編集した記事となる。翻訳・編集:石山修二、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁

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Tom Gray joined The Sporting News in 2022 after over a decade at Ring Magazine where he served as managing editor. Tom retains his position on The Ring ratings panel and is a full member of the Boxing Writers Association of America.

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日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。

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スポーティングニュース日本版アシスタントエディター