ボクシングvs総合格闘技の歴史:噂のフューリーvsガヌーもこの系譜? アリvs猪木、メイウェザーvsマクレガーなど賛否両論の試合の数々

Ben Miller

ボクシングvs総合格闘技の歴史:噂のフューリーvsガヌーもこの系譜? アリvs猪木、メイウェザーvsマクレガーなど賛否両論の試合の数々 image

ボクシングと総合格闘技(MMA)の異種格闘技対決は、何かと議論を呼ぶ結末を辿ってきたが、その化学反応はのちの世に大きな影響も与えてきた。モハメド・アリ vs. アントニオ猪木は現代のMMAを生み出し、フロイド・メイウェザーとコナー・マクレガーの世紀のメガマッチは、近年のエキシビション系・非格闘家系ボクシングマッチの潮流を生んだ。

賛否両論の歴史的試合のいくつかをベン・ミラー(Ben Miller)記者が伝える。

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ボクサーと総合格闘家との異種格闘技戦は、ほとんどのケースにおいて何10年にも渡って嘲笑の的になってきた。しかし、史上最高ファイターと評価される何人かがそうした戦いに身を投じてきたことは紛れもない事実である。そしてときには大きな注目を集めるエンターテイメントに発展した。

さらにそのエンターテイメント化の果てに、純粋な格闘家ではないYouTuberの進出がこの界隈のひとつの潮流になっている。1月14日にも英国のYouTuber・KSIとeスポーツ企業「FaZe Clan」創設者でYouTuberのフェイズ・テンパーがボクシング素人同士の対決を行った。本物のファイターであるクラレッサ・シールズ、イベンダー・ホリフィールド、そしてアンデウソン・シウバたちとは次元が違うが、それでもこのふたりのYouTuberは偉大な先達たちと同じ道を辿ろうとしたと言えるかもしれない。

そしてこの界隈の最新の話題は、WBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリーが、元UFCヘビー級王者フランシス・ガヌーとの対戦に興味を示しているというストーリーだ。

「フランシス・ガヌー、君とUFCとの契約が切れたと聞いたよ。大金を稼ぎたいかい? それなら『ジプシー・キング』(フューリーの異名)に会いに来たらいい。地上最大の戦いをしようじゃないか。ケージのなかで、4オンスの薄いグローブを着けて、ボクシングルールで殴り合おうじゃないか。レフリーも大物を呼ぼう。例えば、マイク・“アイアン”・タイソンだ。世界中が注目すると思わないかい」とフューリーは、ボクシングポッドキャスト司会者ラジオ・ラヒム氏に語った。

現代の総合格闘技はこのような「企画先行型」の戦い(他流試合)によって話題を呼び、そして成長してきたという側面がある。それらに引き寄せられた大物ファイターたちの影響により、良くも悪くも大きなレガシーを遺してきた。

荒れた記者会見、衝撃的なノックアウト、はたまた一笑に付すべき結末、そして(全盛期を過ぎての試合によって)色あせた伝説など、玉石混交の異種格闘技戦の歴史で特筆されるべき試合を振り返ってみた。

モハメド・アリ vs. アントニオ猪木(1976年)

歴史的にみて現代の総合格闘技の先駆けとされる試合である。全盛期のアリがプロレスラーのアントニオ猪木と15ラウンドを戦ったのだ。猪木はほとんどの時間を背中にマットに着けた状態からのキック(通称アリキック)を放ち続けた。それがアリ側から課されたルール上で猪木に許されたギリギリのテクニックだったのだ。挑発を続けたアリであったが、猪木を立たせることはできなかった。

アリはこの試合で600万ドル(当時の為替レートで約18億円)を手に入れた。対戦相手(のちに友人となる)猪木よりはるかに高額のファイトマネーだった。しかし、その大金もWBA、WBC、そしてThe Ring誌の統一王者には見合うものではなかった。プロモーターのボブ・アラム氏は試合後にアリが何週間も入院し、血栓症と感染症のために足を切断しかねないほどのダメージを負ったことを明らかにした。猪木はそれほどまでに強烈なキックを何発もマットから放ち続けていたのだ。

ティム・シルビア vs. レイ・マーサー(2009年)

元オリンピック金メダリストにして元WBO世界ヘビー級王者のマーサーは、レノックス・ルイス、イベンダー・ホリフィールド、そしてウラジミール・クリチコにも挑戦した経験を持つ実力派ボクサーだ。そのマーサーが2009年、2度のUFCヘビー級王者シルビアと対戦した。48歳だったマーサーに対し、15歳年下のシルビアは身長203cmで、マーサーより18cmも高かった。

しかし、UFC離脱後、エメリヤーエンコ・ヒョードルに敗れてから1年ぶりの実戦となった『Adrenaline MMA 3』の舞台にいかにも練習不足を思わせる140kg以上の体重で現れたシルビアは、開始9秒後にマーサーから失神KO負けを喫した。そしてマーサーにとってはこれがキャリア最後のパンチとなった。

ランディ・クートゥア vs. ジェームズ・トニー(2010年)

42歳になりボクサーとしてのキャリアが終わりかけていた元3階級王者のトニーがUFCと契約し、無謀にも同団体で通算6度の王座戴冠を果たしたクートゥアと対戦した。クートゥアの方が5歳年上ではあったが、トニーから肩固めで1本勝ちするまでに1ラウンド以上は不要だった。

UFCのダナ・ホワイト代表は試合後に、ボクシング界を侮辱するつもりはなく、トニーの総合格闘技デビューをプロモートした決断は間違いではなかったと述べた。ただ、トニーはのちにクートゥアを臆病者と罵った。クートゥアがボクシングルールで再戦するという合意を反故にしたから、というのがトニーの主張である。

バレンティーナ・シェフチェンコ vs. ネリス・リンコン(2011年)

キルギスとペルーの2重国籍を持つシェフチェンコは元ムエタイでチャンピオンになり、現UFC世界女子フライ級王者である。ボクシングでも2007年にアマチュアでチャンピオンになった。そして2010年には総合格闘技家としてのキャリアを中断し、プロボクサーとしてのデビュー戦を戦い、ハランナ・ドス ・サントスを相手に3-0判定勝利を収めた。

「Bullet」(弾丸)の異名を持つシェフチェンコは、2011年11月にもネリス・リンコンと完全なボクシングのルールによる試合を行い、KO勝ちを収めた。UFCに参戦する4年前のことであり、強敵と見られていたヨアナ・イェンジェイチックを破ってベルトを奪う7年前のことである。

ホリー・ホルム vs. ロンダ・ラウジー(2015年)

当時、アメリカ人のホルムは女性ボクシングの世界では史上最強ファイターのひとりであったが、総合格闘技に転向してからはさほどポジティブな評価を受けてはいなかった。それ故に、UFCのオーストラリアにおける初の興行で、長い間バンタム級に君臨していた無敗王者のロンダ・ラウジーに挑戦することが決まったとき、ホルムの勝利を予想する者はだれもいなかった。

試合前のオッズは1/20と圧倒的にラウジー有利が伝えられていた。しかし第1ラウンド、ラウジーはキャリアで初めてポイントリードを奪われ、第2ラウンドで左ハイキックを被弾してノックアウトされた。総合格闘技の歴史上最大の番狂わせを演出したホルムだが、その後は3連敗し、2度とベルトを奪回することはなかった。

一方のラウジーも復帰戦でアマンダ・ヌネスに敗れ、タイトル奪回に失敗。その後は世界最大のプロレス団体WWEと大型契約を結び、現在もスポット参戦を続けるが、総合格闘技からは完全にフェイドアウトしている。

キンボ・スライス vs. ケン・シャムロック(2015年)

キンボ・スライスは本名ケビン・ファーガソン。元アメリカンフットボールの選手でもあり、総合格闘家でもあり、俳優でもあり、YouTuberとしても知られている。そして2011年から2013年までの18か月に満たない期間にプロボクシングの試合を7回行い、無敗の戦績を残した。

UFCで戦ったこともあるキンボが約5年間のブランクのあとに総合格闘技へ復帰したときの対戦相手は、ケン・シャムロックだった。UFC1に出場した総合格闘技界の大ベテランだ。日本ではPANCRASEで活躍し、WWEなどのプロレス界隈でも知られた。

ミズーリで行われたBellatorの一戦で、スライスはサブミッションから逃れて、打撃によるノックアウト勝ちを収めた。ライバル団体UFCのコメンテーターであるジョー・ローガンは、この試合を「下らない茶番」だとこきおろした。キンボは2016年6月、現役のまま心不全で亡くなった。

イスラエル・アデサンヤ vs. ランス・ブライアント(2015年)

UFC世界ミドル級ランキング1位のアデサンヤは、2022年11月にアレックス・ペレイラに敗れるまではチャンピオンの座にいた。キックボクシングでも7年間のキャリアでいくつかのタイトルを獲得した。万能ファイターのアデサンヤがデビューしたばかりの総合格闘技を一時中断し、ボクシングに集中しようとした時期が2年間ある。2014年のスーパー8・ボクシングトーナメントに参戦したときは、最初の試合でダニエル・アマンから判定負けを喫した。

主要4団体王座への挑戦はなかったものの、アデサンヤはその後の20か月間でこの大会に2回出場し、全5試合に勝利して、2大会とも優勝した。その対戦相手にはかつてアデサンヤが異なる種類の格闘技の試合に出場することに疑問の声をあげた選手も含まれていた。「僕は歴史を作ろうとしている。同じ年にキックボクシングとボクシングで4つのメジャー大会に優勝した選手はほかに誰もいない」とアデサンヤは大会前に反論していた。

Israel Adesnya
(Chris Unger/Zuffa LLC/GETTY)

コナー・マクレガー vs. フロイド・メイウェザー(2017年)

50戦無敗のメイウェザーが最後に戦ったプロボクシングの公式試合は、かつてないほどの大金が乱れ飛んだ記念碑的な出来事になった。UFC2階級王者のマクレガーを10回KOで勝利した通称「マネー」は、そのときすでに手にしていた近代ボクシング史上最高ボクサー以上の評価を受ける存在にまでなるとは思ってもいなかっただろう。

マクレガーは以前からボクシングのタイトル奪取を狙うと公言していた。UFCの悪童が、ラスベガスで報道陣を前にしたショーマンシップは、その面でも定評があるメイウェザーをも凌ぐものだった。何よりもこの2人はともに傑出したビジネスマンである。この1戦はボクシング史上2番目の経済効果をもたらしたと言われている。ペイ・パー・ビュー売り上げは430万件で、3億9600万ドル(約515億円)の収益を計上した。

他流試合を旨味を知ったメイウェザーにとってはエキシビションビジネスの礎になった。

クラレッサ・シールズ vs. アビゲイル・モンテス(2021年)

ボクシング3階級世界王者であり、現ミドル級4団体統一王者のクラレッサ・シールズが総合格闘技に転向後もパンチを主体としたスタイルで戦っているのは驚くべきことではない。総合格闘技デビュー戦では柔術茶帯のブリトニー・エルキンを相手に最初の2ラウンドは劣勢にさらされたが、3ラウンド目に逆転のノックアウト勝ちを収めた。プロフェッショナル・ファイターズ・リーグ(PFL)とは3試合の契約を結んだ。

シールズはその後1試合しか総合格闘技の試合に出場していない。無敗のモンテスにスプリット判定で敗れたこの試合は、シールズの輝かしいキャリアに汚点を残してしまった。あらゆる格闘技キャリアにおいて初の敗戦だったのだ。

ボクシングではオリンピック2連覇も達成したシールズは、軸足を本来のフィールドに戻すと、2022年10月、サバンナ・マーシャルをロンドンのO2アリーナにおける一戦で下し、通算3度目(ミドル級、スーパーウェルター級、ミドル級)の4団体統一王者となった。なお、女性ボクサーが英国のメジャーな会場でメインに登場したのはこの試合が初めてのことだった。

ビクトー・ベウフォート vs. イベンダー・ホリフィールド(2021年)

22年間の総合格闘技キャリアのなかで、ベウフォートはジョン・ジョーンズとアンデウソン・シウバのUFCタイトルに挑戦したこともある。このブラジル人ファイターは2006年にプロボクサーとしてもデビューし、1ラウンド目にホセマリオ・ネベスから3回のダウンを奪うTKO勝利を収めた。

ただし、この試合に関してはベウフォートに責任があるわけではないが、ホリフィールドに勝利したことはさほど誇るべきではない。元クルーザー級とヘビー級の絶対王者に君臨したホリフィールドだが、この試合では58歳の年齢に加えて、わずか2週間の準備期間でリングに上がったのだ。結果、ホリフィールドが一方的に敗れた。この試合はカリフォルニア州コミッションが公式戦認可を拒否したため、会場をロサンゼルスからフロリダに移し、エキシビションとして行われた。

アンデウソン・シウバ vs. ジェイク・ポール(2022年)

シウバはUFCミドル級王者に長く君臨し、2010年前後における史上最強ファイターのひとりと考えられているが、総合格闘技よりも早くからボクシングのキャリアがある。プロボクサーとしては1998年のデビュー戦で敗れるも、2005年の第2戦では、その後WBC世界ミドル級王者になるフリオ・セサール・チャベス・ジュニアに勝利している。

46歳のシウバはおそらくUFCでの最後の戦いを終えただろう。しかし、ボクシングでは2021年に再びチャベス・ジュニアに勝ち、元UFCライトヘビー級王者のティト・オーティズにも勝っている。そして2022年にはフロイド・メイウェザーのエキシビジョン試合の前座で総合格闘家のブルーノ・マチャドとも戦っている。ただ、同年10月にアリゾナで行われた試合で、25歳のYouTuber系ボクサーであるジェイク・ポールに3-0判定で敗れてしまった。

近年の潮流に乗って本格参戦したボクシングでも瀬戸際に来ているかもしれない。

原文:History of boxing vs MMA: How Mayweather, Shields and UFC stars have fared in fights amid Fury and Ngannou talks
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部


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Ben Miller has been writing about sport for 25 years, following all levels of football as well as boxing, MMA, athletics and tennis. He’s seen five promotions, three relegations, one World Cup winner and home games in at least three different stadiums as a result of his lifelong devotion to Brighton & Hove Albion. His main aim each week is to cover at least one game or event that does not require a last-minute rewrite.